保育園の掃除

保育士の仕事は子どもと関わることだけではありません。

実は毎日の「掃除」が大きな負担になっていることをご存知でしょうか。

衛生管理の徹底が求められる現場では、掃除が重労働となり、本来の保育業務を圧迫しているケースも少なくありません。

この記事では、保育士が抱える掃除の悩みや実態、負担を減らすための考え方を詳しく解説します。

保育現場における掃除の重要性と保育士の役割

保育園という場所は、抵抗力の弱い乳幼児が集団で長時間過ごす空間です。

そのため、一般的な家庭やオフィスとは比較にならないほど高度な衛生管理が求められます。

保育士にとって掃除は、単に見た目を綺麗にするための作業ではなく、子どもたちの「命と健康を守る」という極めて重要な職務の一部として位置づけられています。

しかし、近年の保育現場では、この清掃・消毒業務のボリュームが以前よりも増大している傾向にあります。

背景には、新たな感染症への対策や、アレルギーを持つ子どもへの配慮、さらには保護者からの衛生面に対する要求の高まりなどがあります。

保育士は、子どもたちの安全を確保しながら、限られた時間の中で膨大な掃除箇所をこなさなければならないのが現状です。

保育士が掃除を「大変すぎる」と感じる具体的な理由

なぜ、保育士の掃除はこれほどまでに過酷なのでしょうか。

その具体的な理由を掘り下げていくと、保育現場ならではの特殊な事情が見えてきます。

掃除箇所の圧倒的な多さと細かさ

保育園での掃除対象は、驚くほど広範囲にわたります。

毎日必ず行うべき基本的な清掃だけでも、以下のような箇所が挙げられます。

・保育室の床、壁、窓ガラス、棚の上
・子どもたちが触れる全ての玩具(一つひとつの拭き上げや洗浄)
・絵本の表紙や棚
・トイレ(便座、床、壁、ドアノブ、スリッパ)
・手洗い場、蛇口、鏡
・給食の配膳台、椅子、テーブル(毎食前後の消毒)
・玄関、廊下、階段の手すり
・園庭の遊具、砂場(異物混入のチェック含む)
・乳児クラスのオムツ替えスペースやマット

特に玩具の消毒は、細かなパーツがあるものも多く、一つずつ丁寧に拭いていく作業は膨大な時間を要します。

これらを毎日、あるいは週単位で徹底的に管理することが求められるため、保育士の精神的・肉体的な疲労は蓄積していく一方です。

感染症対策としての高度な消毒作業

保育園は感染症の集団発生(クラスター)が起きやすい環境です。

そのため、通常の掃除に加えて「消毒」が必須となります。

ノロウイルス、インフルエンザ、RSウイルス、手足口病など、季節ごとに流行するウイルスに対応するため、次亜塩素酸ナトリウム等の消毒液を適切に希釈し、正しい手順で拭き掃除を行わなければなりません。

特に、嘔吐物や排泄物の処理は最も神経を使う作業の一つです。

適切な防護服や手袋を着用し、二次感染を防ぐための厳しいマニュアルに従って処理を行います。

失敗すれば園全体に感染が広がる可能性があるというプレッシャーの中で行う掃除は、精神的な消耗も激しいものです。

子どもを見守りながらの「ながら掃除」

保育士が掃除を行うのは、子どもたちが帰宅した後だけではありません。

多くの場合、子どもたちが活動している最中に掃除を進める必要があります。

これを「ながら掃除」と呼びますが、これが非常に難易度の高い業務です。

子どもたちが走り回る中で掃除機をかけたり、おもちゃを片付けたりする際、保育士は常に「死角」を作らないように意識しなければなりません。

目を離した隙に子どもが転倒したり、掃除用具を口に入れたりする危険があるからです。

安全への配慮と掃除の効率化という、相反するタスクを同時にこなすことが、保育士に多大なストレスを与えています。

肉体的な負担と健康への深刻な影響

掃除業務の過酷さは、保育士の身体にも大きなダメージを与えます。

多くの保育士が抱える職業病の多くは、実は掃除に起因していることが少なくありません。

腰痛と膝の痛みによる慢性的な不調

保育園の家具や設備は、子どものサイズに合わせて低く作られています。

そのため、掃除の際も保育士は常に中腰や屈んだ姿勢を強いられます。

床を這うようにして拭き掃除をしたり、低い位置にあるトイレを磨いたりする動作は、腰や膝に致命的な負担をかけます。

「朝、起きるのが辛いほどの腰痛がある」「膝が痛くて正座ができない」という悩みを抱えながらも、湿布やサポーターで誤魔化して働き続けている保育士は非常に多いのが実情です。

これが原因で将来的に身体を壊し、離職を余儀なくされるケースも後を絶ちません。

洗剤と消毒液による深刻な手荒れ

衛生管理を徹底するため、保育士は一日に何度も手洗いと消毒を行います。

さらに掃除の際には、強力な洗剤や塩素系消毒液を使用します。

ゴム手袋を着用できる場面ばかりではないため、多くの保育士が深刻な手荒れに悩まされています。

特に冬場は、冷たい水での雑巾がけが重なり、指先が割れて血が滲む「あかぎれ」が常態化します。

ハンドクリームを塗っても追いつかないほどの手荒れは、保育士にとって避けられない苦痛の一つとなっています。

夏場の屋外清掃と全身の疲労

夏場にはプール遊びが始まります。

プールの準備や片付け、使用後の消毒作業は炎天下で行われることが多く、熱中症のリスクと隣り合わせの重労働です。

また、砂場の整備や園庭の草むしりなど、屋外の清掃も保育士が担当することが多く、その全身への疲労感は計り知れません。

精神的な葛藤と「保育士の専門性」への疑問

「自分は保育をするために資格を取ったのに、なぜ一日中掃除ばかりしているのだろうか」という思いは、多くの保育士が一度は抱く感情です。

この精神的な葛藤が、仕事へのモチベーションを低下させる要因となっています。

サービス残業の温床となる掃除時間

日中の保育時間内に全ての掃除を終わらせることは、現実的にほぼ不可能です。

そのため、多くの園では「子どもたちが降園した後の時間」や「休憩時間」を掃除に充てています。

しかし、その時間は本来、連絡帳の記入や指導案の作成、行事の準備など、他の重要な事務作業を行うべき時間でもあります。

結果として、事務作業が終わらずに持ち帰り残業になったり、掃除が終わるまで退勤できなかったりといったサービス残業が発生します。

「掃除が終わらないから帰れない」という状況は、保育士の労働環境を悪化させる大きな要因です。

子どもと向き合う時間の喪失

掃除に追われるあまり、目の前の子どもの「見て見て!」という声に応えられなかったり、一人ひとりの心の変化に気づく余裕がなくなったりすることがあります。

保育の質を追求したいという理想と、掃除を終わらせなければならないという現実の板挟みにあい、自己嫌悪に陥る保育士も少なくありません。

園の運営体制によって生じる掃除負担の格差

全ての保育園で掃除が同じように大変なわけではありません。

実は、園の運営方針や設備環境によって、保育士の負担には天と地ほどの差があります。

外部清掃業者や専用スタッフの有無

近年、働き方改革の一環として、外部の清掃業者を導入する保育園が増えています。

週に数回、専門の業者が床の洗浄やエアコン清掃、窓拭きなどを行ってくれる園では、保育士の負担は大幅に軽減されます。

また、清掃専門のパートスタッフ(用務員)を雇用している園もあります。

保育士が保育に専念できる環境を整えている園と、コスト削減のために全ての清掃を保育士に押し付けている園とでは、離職率にも大きな違いが出ています。

施設の老朽化と構造の問題

古い園舎の場合、汚れが落ちにくかったり、掃除の動線が悪かったりすることがあります。

また、水回りの設備が古く、手作業での消毒に手間がかかることも珍しくありません。

一方で、新しく建てられた園舎では、掃除のしやすさを考慮した床材や、自動洗浄機能付きのトイレ、効率的な消毒システムが導入されており、肉体的な負担が最小限に抑えられています。

掃除に関する独自の「こだわり」と精神論

園長や主任の考え方次第で、掃除のルールが過剰に厳しくなっているケースもあります。

「子どもたちのために、毎日全ての棚の裏まで拭くべきだ」「雑巾がけは心を込めて手作業で行うべきだ」といった、合理性を欠いた精神論がまかり通っている職場では、保育士は疲弊するばかりです。

現場でできる負担軽減のための具体的な工夫

すぐに環境を変えることが難しい場合でも、日々の工夫次第で掃除の負担を数パーセントでも減らすことは可能です。チーム全体で取り組むべきアイデアを紹介します。

掃除マニュアルの見直しと合理化

「なんとなく昔からの慣習で行っている掃除」はないでしょうか。

全ての箇所を毎日完璧に掃除するのではなく、汚れの度合いに応じて「毎日やる場所」「週に一度で良い場所」「月に一度で良い場所」を明確に区分します。

チェックリストを作成し、効率的にタスクを消化できるようにルール化しましょう。

最新の掃除家電や便利グッズの導入提案

もし可能であれば、園に対して便利な掃除用具の導入を提案してみましょう。

・高性能なコードレス掃除機(機動力アップ)
・ロボット掃除機(閉園後の床清掃自動化)
・使い捨ての除菌シート(雑巾を洗う手間の削減)
・スチームクリーナー(頑固な汚れの時短清掃)
・玩具専用の洗浄ネットと食洗機の活用

これらを導入することで、年間の労働時間を大幅に短縮できる可能性があります。「保育の質を高めるための投資」として、前向きな姿勢で提案することが大切です。

「教育としての掃除」を保育に取り入れる

幼児クラスであれば、子どもたちと一緒に掃除を楽しむ活動を保育に取り入れることができます。

「自分たちの使った場所を綺麗にする」という意識を育むことは、立派な教育活動です。子どもが自分でロッカーを拭いたり、おもちゃを整理したりできるようになれば、保育士の仕上げ掃除の負担は軽減されます。

もちろん、安全面には十分な配慮が必要ですが、子どもたちを「守られる存在」から「共に環境を整えるパートナー」へと変えていく視点が重要です。

どうしても掃除が辛くて限界を感じた時の対処法

どれほど工夫をしても、園全体の体制が変わらなければ限界が来ます。心身を壊してしまう前に、以下のステップを検討してください。

上司や経営層への具体的な相談

まずは現状の負担を数値化して相談してみましょう。

「毎日〇〇時間の掃除が発生しており、本来の保育準備が圧迫されている」「腰痛が悪化しており、このままでは保育を続けることが難しい」と具体的に伝えます。

感情的に訴えるのではなく、保育の質への影響を強調することで、建設的な話し合いができる可能性があります。

職場環境の見直しと転職の検討

もし、相談しても「それが保育士の仕事だ」「昔の人はもっとやっていた」と一蹴されるような環境であれば、それはあなたの努力不足ではなく、園の体制に問題があります。

今の世の中には、保育士の負担軽減を真剣に考え、清掃体制を整えている園がたくさんあります。

転職を検討する際は、以下のポイントを確認してみてください。

・清掃業者や用務スタッフが配置されているか
・ICTツールの導入などで、掃除以外の事務負担が軽減されているか
・施設が新しく、掃除のしやすい環境か
・見学時に、保育士が掃除に追われてピリピリしていないか

掃除が楽になるだけで、子どもたちと向き合う余裕が生まれ、保育がもっと楽しくなります。

自分の健康とキャリアを守るために、環境を変えることは決して逃げではありません。

まとめ:持続可能な保育士ライフを送るために

保育士にとって掃除は切っても切り離せない仕事ですが、それが「大変すぎる」と感じる原因は、あなたの技術不足ではなく、多くの場合、仕組みや環境にあります。

衛生管理という大義名分の下で、保育士が無制限に自己犠牲を強いられる現状は、改善されるべき課題です。

まずは、日々過酷な掃除をこなしている自分を労ってください。

そして、少しでも負担を減らすためのアクションを、小さなことから始めてみましょう。

あなたが笑顔で、心身ともに健やかに子どもたちと接することが、子どもたちにとって最大のメリットなのです。

掃除に追われる毎日を卒業し、保育士としての専門性を存分に発揮できる未来を、あなた自身の手で選んでいくことを応援しています。

この記事を読んで「今の園では掃除が多すぎて、もう限界かも…」と感じた方は、一度他の園の様子を覗いてみるのも一つの手です。

保育士の働き方は、園によって驚くほど違います。あなたの情熱を、もっと大切にしてくれる場所は必ずありますよ。

より良い保育環境を探すために、まずは求人情報で「清掃スタッフあり」や「福利厚生充実」の条件をチェックしてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

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