保育士の仕事はやりがいがある一方で、心身の負担から休職を選択する方が増えています。
「休職中の給与はどうなるのか」「どのような手続きが必要か」と不安を感じることも多いでしょう。
本記事では、保育士が休職に至る主な理由から、傷病手当金などの経済的なサポート、復職に向けたステップまで詳しく解説します。
保育現場で休職者が増加している深刻な背景
近年、保育現場では休職を選択する保育士が急増しています。
厚生労働省の調査や現場の声からも、保育士の離職率だけでなく、在職中のまま「休職」という形を取るケースが目立っていることがわかります。
その背景には、単なる「忙しさ」だけでは片付けられない、保育業界特有の構造的な問題が潜んでいます。
かつては「子どもが好き」という情熱だけで乗り切れると考えられていた側面もありましたが、現代の保育ニーズは非常に高度化し、多忙を極めています。
保育士不足によって一人ひとりの業務負担が増大し、有給休暇すら満足に取れない環境が、結果として「倒れるまで働く」という状況を生み出しているのです。
このような状況下では、本来ならば早期に休息を取るべき段階で無理を重ねてしまい、最終的に長期の休職が必要なほど体調を崩してしまう保育士が少なくありません。
保育士が休職を決断する主な理由とは
保育士が休職に至る理由は多岐にわたりますが、多くの場合、複数の要因が複雑に絡み合っています。
ここでは、現場で特に多く見られる原因を整理して解説します。
精神的なストレスとメンタルヘルスの不調
保育士の休職理由で最も大きな割合を占めるのが、うつ病や適応障害などのメンタルヘルスの不調です。
保育士は常に子どもの命を預かるという極度の緊張感の中にいます。
一瞬の油断が大きな事故につながりかねない環境で、毎日神経をすり減らして働いています。
・責任感が強く、一人で問題を抱え込んでしまう
・完璧な保育を目指すあまり、自分を追い詰めてしまう
・行事の準備や日々の帳票作業に追われ、睡眠時間が削られる
このような状況が数ヶ月、数年と続くことで、心に過度な負荷がかかり、ある日突然、糸が切れたように動けなくなってしまうことがあります。
特に、真面目で責任感の強い「良い先生」ほど、限界を超えてしまいやすい傾向にあります。
職場の人間関係による悩み
保育現場は狭く、閉鎖的な空間になりがちです。
限られた職員同士で長時間密接に関わるため、一度人間関係がこじれると修復が難しく、逃げ場がなくなってしまいます。
・園長や主任との教育方針の不一致
・同僚間での派閥争いやいじめ
・複数担任制におけるパートナーとの連携不足
特に、経験の浅い若手保育士がベテラン保育士から過度な叱責を受けたり、適切な指導を受けられずに孤立したりするケースは後を絶ちません。
また、保育の方針を巡って意見が対立し、職場全体の雰囲気が悪化することが、強い心理的ストレスとなり、休職に追い込まれる原因となります。
過酷な肉体的労働と慢性的な疾患
保育士は「体力勝負」の職業です。子どもを抱っこする、低い姿勢で遊ぶ、おむつ替えや食事の介助を行うといった動作は、腰や膝に多大な負担をかけます。
・慢性的な腰痛や椎間板ヘルニアの発症
・腱鞘炎による手指の痛み
・子どもから感染症をもらうことによる体力低下
身体的な痛みは、精神的な健康にも悪影響を及ぼします。
体が痛くて思うように動けない、でも休めないという葛藤が、さらにストレスを増大させます。
医師から「安静が必要」と診断されても、代わりの職員がいないという責任感から無理を続け、結果として手術が必要なほど重症化してしまい、長期休職を余儀なくされるケースも目立ちます。
保護者対応への疲弊
近年、保育士にとって大きな負担となっているのが、保護者への対応です。
子育てに不安を感じる保護者が増える中で、保育士に求められる役割は単なる「預かり」を超え、家庭支援やカウンセリング的な要素まで含まれるようになっています。
・過度な要求を繰り返す「モンスターペアレント」への対応
・連絡帳や送迎時のクレームによる精神的消耗
・保護者同士のトラブルの仲裁
園として保護者対応のルールが整備されていない場合、保育士個人が理不尽な要求の矢面に立たされることになります。
保護者からの厳しい一言で自信を失い、「自分は保育士に向いていないのではないか」と思い詰めてしまう方も多いのが現状です。
休職中の給料はどうなる?知っておくべき公的制度
休職を検討する際、最も心配なのは「収入」のことです。
保育士が休職した場合、給料がどのように扱われるのか、どのような手当があるのかを詳しく見ていきましょう。
私立保育園と公立保育園の違い
まず、勤務先の形態によって給与の扱いは大きく異なります。
公立保育園で働く地方公務員の保育士の場合、条例によって「病気休暇」や「休職」の期間中も給与の全額、または一定割合が一定期間支給される制度が整っています。
一方、私立保育園などの民間施設の場合、原則として働いていない期間の給与は支払われません(ノーワーク・ノーペイの原則)。
しかし、有給休暇が残っている場合は、それを消化することで給与を100%受け取ることができます。
有給を使い切った後、本格的に「欠勤」や「休職」の状態になると、園からの直接の支払いはストップするのが一般的です。
傷病手当金は保育士の強い味方
園からの給与が止まった際、生活を支えてくれるのが健康保険から支給される「傷病手当金」です。
これは病気やケガで働けなくなった場合に、本人とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。
支給を受けるための主な条件は以下の4つです。
・業務外の病気やケガで療養中であること
・今まで行っていた仕事ができない状態であること
・連続して3日間休み、4日目以降も休んでいること
・休職期間中に給与の支払いがないこと(または給与が手当金より少ないこと)
支給額は、おおよそ「月給の3分の2」に相当します。
具体的には、直近12ヶ月の標準報酬月額の平均を30日で割り、その3分の2の金額が1日あたりの支給額となります。
これにより、完全に無収入になる事態を避けることができ、治療に専念できる環境が整います。
傷病手当金の受給期間と注意点
傷病手当金の支給期間は、支給開始日から通算して最長で1年6ヶ月です。
以前は「1年6ヶ月の期間」という括りでしたが、制度改正により、体調が良くなって一時的に復職した期間を除き、実際に受給した期間を合算して1年6ヶ月分もらえるようになりました。
これにより、メンタル疾患などで復職と休職を繰り返す場合でも、より柔軟にサポートを受けられるようになっています。
注意点としては、申請には「医師の診断」が必要であること、そして「本人による申請」が必要であることです。
園が代行してくれることもありますが、基本的には自分で書類を準備し、医師に証明欄を記入してもらう必要があります。
労災保険が適用されるケース
もし、休職の原因が明らかに仕事によるものである(仕事中の事故や、職場でのパワハラ、度を超えた長時間労働など)と認められる場合は、健康保険の傷病手当金ではなく「労災保険」の対象となります。
労災(労働者災害補償保険)が認定されれば、療養費が無料になるほか、休業補償給付として給付基礎日額の約80%(特別支給金を含む)が支給されます。
ただし、精神疾患での労災認定は、業務との因果関係を証明する必要があるため、非常にハードルが高く、認定までに時間がかかるのが現状です。
多くの場合は、まず傷病手当金を申請し、並行して労災の可能性を検討することになります。
見落としがちな休職中の「支出」と社会保険料
休職中、収入が減る一方で、支払わなければならないお金があることも忘れてはいけません。
ここを理解していないと、後から思わぬ請求に驚くことになります。
社会保険料(健康保険・厚生年金)の支払い
給料がゼロになっても、社会保険料の支払いは免除されません。
通常は給料から天引きされていますが、給料が支払われない期間は、園が立て替えて支払った分を、保育士が園に振り込むなどの形で精算する必要があります。
傷病手当金はあくまで「手当」として後から振り込まれるため、毎月の社会保険料(数万円程度)を支払えるだけの貯蓄は手元に残しておく必要があります。
休職に入る前に、園の事務担当者と保険料の支払い方法について確認しておくことが非常に重要です。
住民税の支払い義務
住民税は前年の所得に対して課税されるため、現在の収入がなくても請求が来ます。
給料天引きができなくなるため、自宅に届く納付書で支払う「普通徴収」に切り替える必要があります。
市役所や町村役場から届く納付書は、一括または4分割での支払いが基本となるため、一回あたりの負担額が大きくなる傾向にあります。
経済的に厳しい場合は、自治体の窓口で納付相談を行うことも検討しましょう。
休職期間中の正しい過ごし方とメンタルケア
いざ休職に入っても、最初のうちは「職場に迷惑をかけている」「早く戻らなければ」という焦りから、十分に体を休めることができない保育士の方が非常に多いです。
しかし、中途半端な休息は回復を遅らせる原因になります。
まずは「何もしない」自分を許す
休職初期は、何も考えずに心身を休めることが最優先です。保育士の方は責任感が強く、動けない自分を責めてしまいがちですが、休職は「また元気に働くための必要な治療」です。
罪悪感を捨て、まずは睡眠を十分に取ることから始めましょう。
・仕事用の連絡ツール(メールやLINE)は見ない
・SNSで他の保育士の様子を追わない
・「〇日までに治す」といった期限を決めない
これらを守るだけでも、脳への刺激が軽減され、少しずつ心が落ち着いてきます。
デジタルの情報を遮断し、自分だけの静かな時間を確保しましょう。
生活リズムを整える「回復期」の過ごし方
医師から外出の許可が出るくらいに回復してきたら、少しずつ生活リズムを整えていきます。
メンタル疾患の場合、朝起きて太陽の光を浴びることが、脳内の神経伝達物質「セロトニン」の分泌を助け、気分の安定につながります。
・決まった時間に起床し、着替える
・近所を10分程度散歩する
・3食の食事をバランスよく摂る
いきなり以前のような完璧な生活を目指す必要はありません。
「今日は着替えができた」「今日は外に出られた」という小さな成功体験を積み重ねていくことが、自己肯定感の回復につながります。
カウンセリングやリワークプログラムの活用
自分一人で悩みを解決しようとせず、専門家の力を借りることも有効です。
病院での診察だけでなく、カウンセリングを受けることで、自分の思考の癖やストレスへの対処法(コーピング)を整理することができます。
また、地域によっては「リワーク(復職支援)プログラム」を提供している施設もあります。
同じように休職している他職種の方々と交流したり、軽作業や軽運動を行ったりすることで、社会復帰に向けたリハビリを行うことができます。
こうした公的な支援を積極的に活用しましょう。
復職を目指すか、環境を変えるかの判断基準
体調が回復してくると、「そろそろ仕事に戻れるかも」と考える時期が来ます。
しかし、ここで焦って判断を誤ると、再休職のリスクが高まります。
復職を決める前のセルフチェック
復職を検討する際は、以下の項目がクリアできているか冷静に振り返ってみてください。
・毎日決まった時間に起床し、日中活動しても翌日に疲れが残らないか
・通勤電車やバスに乗っても、動悸や吐き気がしないか
・仕事に必要な集中力や判断力が戻ってきているか
・以前の休職原因(パワハラや過重労働など)に対して、園側が改善策を提示してくれているか
特に重要なのは、休職に至った原因が「自分」ではなく「環境」にあった場合、その環境が以前のままであれば、復職しても同じ結果になる可能性が高いということです。
主治医と相談しながら、慎重にタイミングを見極めましょう。
段階的な復職(慣らし勤務)の提案
いきなりフルタイムの担任業務に戻るのは、心身ともに非常に大きな負担です。
可能であれば、園側に以下のような配慮を相談してみましょう。
・最初は週3日、午前中のみの勤務から始める
・担任を外れ、フリーの補助保育士としてスタートする
・行事担当や重い帳票作業から一定期間外してもらう
理解のある園であれば、ステップアップ式の復職プランを一緒に立ててくれるはずです。
もし「戻るなら以前と同じように働いてもらわないと困る」という態度を取られるようであれば、その職場への復帰は再検討したほうが良いかもしれません。
転職という「前向きな選択肢」
休職期間を経て、「今の園には戻りたくないけれど、保育士の仕事は続けたい」と気づく方も多いです。
その場合は、無理に元の職場に戻る必要はありません。保育士不足の今、あなたを必要としている園は他にたくさんあります。
・残業ゼロや完全週休2日制を徹底している園
・小規模保育や企業内保育など、落ち着いた環境の園
・ICT導入により事務作業を大幅に削減している園
・風通しが良く、職員のメンタルケアに力を入れている園
一度立ち止まって休んだからこそ、自分にとって「本当に大切にしたい働き方」が見えてくるはずです。休職期間を「自分らしいキャリアを再構築するための充電期間」と捉え、新しい環境に一歩踏み出すことも、立派な解決策の一つです。
まとめ:自分を大切にすることが、良い保育への第一歩
保育士が休職することは、決して責任感がないわけでも、甘えでもありません。
子どもたちを笑顔にするためには、まずあなた自身が心身ともに健康で、笑顔でいられることが何より大切です。
・休職は労働者の権利であり、自分を守るための正当な手段である
・給料が止まっても、傷病手当金などの公的支援で生活を支えることができる
・社会保険料などの支出については、事前に園と確認しておく
・休職中は自分を責めず、まずはしっかりと休養を取る
・復職は焦らず、環境改善の有無や自分の体調を見極めて決める
もし今、仕事がつらくて限界を感じているなら、勇気を持って「休む」という選択肢を選んでください。
その決断は、あなたがプロの保育士として今後も長く活躍していくために、決して無駄にはなりません。
まずは自分をいたわり、心に余裕を取り戻すことから始めていきましょう。
あなたの代わりは他にいても、あなた自身の人生の主役はあなた一人しかいません。ゆっくりと羽を休め、またいつか、自分らしく子どもたちと向き合える日が来ることを願っています。
この記事を読んで、休職の手続きや給付金の詳細についてさらに詳しく知りたいと思った方は、ぜひ専門の相談窓口や信頼できるキャリアアドバイザーに相談してみてください。
一歩踏み出すことで、今の悩みから解放されるきっかけが見つかるはずです。










